ライター山﨑 恵のブログ

音楽、日本美術、甘いものなど。好きなもののことを自由に書いていきます。

小説 『若冲』

先日の『若冲』展が、私にはちょっと衝撃が強すぎたのか、観た後しばらくの間は頭の中があの極彩色に埋め尽くされたままでした。桜に紅葉に鶏と、絶えず脳内でスライド上映されてる感じで、その鮮やかな世界にずっと埋もれていたいような、色に支配されてふわふわする頭をいい加減落ち着けたいような。

何か違うことを考えたい、でも他の展覧会とかに行く気にもなれないって時にふと思い出して、澤田瞳子さんの「若冲」を再読しました。

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京都・錦市場にある青物問屋、桝源の跡取りとして生まれた若冲は、若い頃から絵業にのめり込んで肝心の家業はないがしろ。そんな若冲の妻は、いつも絵のことばかりで自分をまるでかえりみない夫と、その原因は亭主の体たらくを正せない嫁にあるとする周囲からの責めを苦にして、自ら命を絶ってしまいます。自分のせいで妻を死なせてしまった若冲はますます絵に没頭。「姉を殺したのは若冲と桝源の家」と言って憚らない義弟の弁蔵は、そんな若冲にいよいよ恨みを募らせてゆきますがーー。

腹違いの妹・志乃を語りべに、史実への深い洞察と溢れる想像力で描かれる天才絵師の生涯。「動植綵絵」「鳥獣花木図屏風」「果蔬涅槃図」などの傑作が生み出された背景、池大雅、与謝蕪村ら同時代に活躍した絵師たちとの交流には、あくまでフィクション、と頭では分かっていながらも興奮を抑えられません。若冲独特の、人を惹きつけてやまない不思議な後ろ暗さをこんな風に解釈するなんて。作家さんって凄い……!!
 
最初に読んだ時あまりの面白さに驚愕したんですが、その感動は2回目でも色褪せず。綿密に練られたストーリーはほんっとうにお見事です。激動の時代に生きる人々の人生の悲哀も美しく盛り込まれていて、時代小説が好きなら絶対おすすめ。
あ、ちなみに作品画像は掲載されてないのであしからず。載ってたら最高なんですが。
 

去年の直木賞候補にもなった今作、文庫本はまだみたい。『若冲』展のタイミングで出してもよかったのにと思うけど、単行本発売から1年じゃ早すぎるのかしら?

短い会期と異常な混み具合に「動植綵絵」をあきらめちゃった方、雑誌の特集や専門書もいいですが、小説というかたちで追ってみてもいいかもです。

 

それでは、また。