ライター山﨑 恵のブログ

音楽、日本美術、甘いものなど。好きなもののことを自由に書いていきます。

『肉筆浮世絵ー美の競艶』展

さて、記念すべき1本目は

上野の森美術館で開催中の『肉筆浮世絵-美の競艶』展について。

 

f:id:megumiy:20151228114221j:plain 

ここ一カ月ほどの間に観た浮世絵の展覧会、どれもほんとに素晴らしかったのだけど

私いつも会期終了ギリギリに慌てて行くので、他のは全部終わっちゃってるんだな、、

お正月休み突入のタイミングだし、せっかくなら使える情報のがいいですもんね。

これからは出来るかぎり早めに行こう、うん。

終わっちゃった他の展覧会についても、追って感想をまとめたいと思います。

 

で、肉筆浮世絵。ざっと説明すると

浮世絵=版画ってイメージですけど実は違くって、江戸時代〜明治初期の人々の生活や風俗、実在の人物や時事ネタなんかを題材にしたものの総称。

で、絵師が描いた絵を彫師が版木におこし、摺師が刷って量産したのが浮世絵版画。

対して肉筆浮世絵は、絵師が一筆一筆丁寧に描き込んで仕上げた一点もの。

この展覧会の構成作品がほぼすべて美人画ということもあり、広重の風景画に漂う侘び寂びや、国芳の優れた画面構成&インパクト、写楽のデフォルメされた世界なんかを期待していくとたぶん面食らいます。掛軸とかになってるいわゆる日本画を想像してた方が、実物との印象のズレは少ないかもしれない。

 

かくいう私も、肉筆画そのものには正直そこまで執着なくて

「でも北斎とか英泉とかメンツ超豪華だしとりあえず行っとくか」

くらいの気持ちだったんです、行く前は。

でも行ってみたらば、想像以上に良かった!

 

まず、どの作品もびっくりするほど状態がいい。

破れ、折れ、シミはほぼ皆無。重ねた絵具の剥落さえほとんどなくて、「…新品?」って思ったくらい。

これは肉筆画の特徴も関係しているようで、

手間も時間もかかる一点ものの肉筆画は、大名や豪商といった当時のお金持ちが、自分のだけために描かせた特注品ばかりなんだとか。市民向けに量産された浮世絵版画とは対照的な存在なんですね。そして使ってる絵具は当時とても高価だった岩絵具。おもに鉱物を原料とした岩絵具は発色がよく、経年による退色も少ないため、当時の彩色がそのまま残っているという。

また作品の多くは掛軸の形に美しく装幀されていて、それも見どころ! 錦糸の織物の上からさらに草花の刺繍が施されていたりするのだけど、絵の内容・構図に合わせた高いデザイン性、工芸品としての質の高さは溜め息ものです。

 

そして、どの作品もものすごく間近に鑑賞できる! これがほんとよかった。

今回、従来より薄型で透明度の高い陳列ケースをわざわざ特注したそう。さらに照明も、作品へのダメージが少なく、かつ本来の色に近い色彩を再現できる最新の有機EL。だから、「これもうちょっと照明当ててくれないかな…」っていうあのストレスがない! おかげで生えぎわの髪の1本1本、上から重ねた絵具の立体感までじっくり鑑賞できます。

絵としての美しさはもちろん、「こんな細い線どうやって彫るの」みたいな、職人たちの超絶技巧も浮世絵ならではの面白さだと思うんですが、その醍醐味は肉筆画でも十分に堪能できるんだということを思い知らされます。そしてなんといっても表現力の豊かさ。遊女の豪華な着物に描かれた柄はそれだけで一つの絵画のようだし、襦袢の柄が透ける薄物の着物はしゃりっとした質感までもが伝わるよう。版画に比べ作品が大きいのでその分迫力もあるし。

 

関西の絵師の作品が充実していたのも、個人的には嬉しかったなあ。今回初めてその名を知った祇園井特、リアルを追求した異色の美人画はちょっと衝撃でした。

そう、師宣とか歴代の歌川派とか暁斎(一休禅師地獄太夫図!!これだけでも行く価値あると思う)とか、各時代のスター絵師が勢揃いしてるのももちろんなんだけど、そこまで有名じゃない絵師の作品もかなりの名品揃い。これが個人コレクションっていうのが信じられない。私はどの作品もさらっと流すことができなくて、気付けば滞在3時間……。超疲れた。お客さんの年齢層はほかの浮世絵展よりかなり高くて、私と同世代がちらほら、年下っぽい人はほとんどいなかった。肉筆画で美人画となるとやっぱりちょっとハードル高いのかな。だとしたらもったいないです。

 

1月17日(日)までやってます。気になった方ぜひ。